急な雷雨と恋人達
ぴかぴかのお天気空が、俄に暗くなったら要注意 ―― ザアァァァ 「わあっ!降ってきた!」 「こっちだ。」 ほんの僅かな間に快晴から一転して降ってきた大粒の雨の下を、きらと優は公園にある吾妻屋の下に逃げ込んだ。 幸い、公園でのんびり話しをするというある種若者らしくないデートプランを実行中だったおかげで雨の被害は割と少ない。 「急にきたね。」 「ああ、そうだな。」 「はあ、ちょっと濡れちゃったよ。」 ため息をつきながら、きらがいつも左に括っている髪をほどいた。 癖のないきらの黒髪がさらりと肩に零れる様子に優は一瞬目を奪われる。 と、視線に気が付いたきらが不思議そうな顔で覗き込んできた。 「?どうかした?」 「えっ!?あ、な、なんでもない!!」 (妙に綺麗に見えたなんて言えるか!!) これが愁一あたりならさらりと言えるのだろうが、不器用者で通っている優にそんな恥ずかしい台詞が言えるはずもなく、慌てて誤魔化すように優は急に振り出した雨に目を向けた。 大粒の雨は止む気配もなくバラバラと音を立てて降っている。 「さっきまで良い天気だったのにな。」 「うん、夕立にしては時期が・・・・あ、もしかして。」 急にきらが何か思いついたように言った。 「ねえ、これって・・・・」 「・・・・ああ、僕もそう思った。」 「やっぱり?」 優ときらはお互いに同じ人物の顔が浮かんでいることを確認するように、顔を見合わせた。 「・・・・そういえば、愁一が急に用ができたとかなんとか言ってあいつを探していたな。」 「あ〜、昨日陽菜さんに会った時、嬉しそうにしてたから、きっと約束があったんだね。」 「最近、あいつ、愁一の護衛で遠出が続いていたから。」 「久しぶりのデートだったんだ。あ〜・・・・それはしかたないかも。」 「・・・・片瀬は意外とフォローが下手くそだからな。」 優がそう言った時、ゴロゴロゴロ・・・と不穏な音が聞こえてきらは顔をしかめた。 「本気で怒ってるね。」 「まったく、迷惑な奴らだ。」 呆れたようにため息をつく優の横で、きらが空を見上げる。 「・・・・雷落ちるかな。」 ぽつり、と言う感じで呟かれた言葉に優はきらに視線を向けた。 そこには妙に不安そうに空を見上げるきらの顔があって。 「雷、苦手なのか?」 「う〜ん、室内にいる時はそれほどでもないんだけど、外にいるとちょっと不安になる。落ちる時の音って凄いし・・・・」 言ってるうちに子どもっぽい事を言っていると思ったきらは、照れくささを誤魔化すために苦笑してみせた。 「そうか・・・・・」 何か考えるような優の語尾に自然と会話が途切れる。 ザアアアァァ 別に居心地が悪い沈黙でもなかったのできらは降り止まない雨に視線を向けた。 ゴロゴロゴロ・・・・ また不穏な遠雷が聞こえたその時、不意にきらの右手を温もりが包んだ。 「!?」 驚いて跳ねるように右側にいるたった一人の人を振り返れば ―― そこには、そっぽを向いて、それでも耳まで真っ赤な優がいて。 「あ、雨が止むまで、だ。」 「雨、止むまで?」 「お、お前が不安そうな顔をしてるのは!・・・そ、その、似合わない、から。」 思い切りどもって、伝染しそうなほど恥ずかしそうで・・・・それでも、優の左手はきらの右手をしっかりと握りしめている。 その温もりがとても、とても愛おしくて、きらは笑った。 そして、きらの笑みに見惚れてしまった優に少しだけ悪戯っぽく言う。 「できれば、雨が降ってなくても手、繋ぎたいな?」 「なっ!」 「一応、恋人ってやつなんだし、出かける時とか手を繋いでデートとか。」 「こっ!そ、そんな恥ずかしい事できるかっ!!」 真っ赤になってわめく優に、きらは吹き出した。 「笑うな!!」 「だ、だって優、かわい・・・」 「男が言われて嬉しくないっっっ!!もう離すぞ!!」 「あ!ごめんごめん!!」 本格的に優がへそを曲げてしまいそうになって、きらは慌てて謝ると優の手を握り直した。 ただ繋いでいた手を、今度は指を絡めて。 「!」 「雨がやむまで、いいよね?」 「・・・・・・・・」 返事の代わりに、繋いだ手がきゅっと握られる。 ザアアアァァ 雨は一向に止む気配はない。 「陽菜さん、相当怒ってるね。やみそうもない。」 「・・・・ああ。」 「ふぅ、片瀬さん、ちゃんと陽菜さんを慰めてるのかなあ。」 「・・・・さあな。だが」 「ん?」 言葉を切った優を、きらが見ると優は目を細めてきらを見つめていた。 そして珍しく照れてそらすことなくきらの瞳を見つめたまま、言った。 「・・・・もう少し、やまなくてもかまわない。」 「うん・・・・そうだね。」 頷き合って、きらと優はそっと微笑み合った。 ―― 数分後 ゴロゴロ・・・・・・・・・ピシャッッッッ!!! 「あ、落ちた。」 「・・・・片瀬の奴、生きて帰ってくるといいな。」 〜 終 〜 |